やきもののふる里  訪ねてみたいやきものの街   備前  

シリーズ 第5回

   備前(岡山)  土味そのものが魅力のやきものは
              いかにも日本的で風韻にとんでいて...

備前焼はは六古窯の中でも最も古い窯で、中世から千年の伝統があり、「無釉、焼締め」を特徴に庶民の日用雑器を作ってきた。鎌倉・室町時代に焼かれたかめ甕やすりばち擂鉢、壷などの日用雑器は「古備前」と呼ばれる。
桃山時代になると、備前焼がかも醸し出す素朴な味わいが「侘び・寂び」の茶の道に愛され、茶器として用いられる。利休や織部、秀吉らのひご庇護もあり、備前焼は一世をふうび風靡する。同時に、北大窯、南大窯、西大窯などが造られ、それまで分散して山の中で焼いていた窯を集め、日用雑器も大量に生産されるようになった


← 国指定史跡の伊部南大窯跡
江戸中期になると、江戸中期になると伊万里など釉薬ものに圧倒され低迷期に入る。それを救ったのが、古備前を追求し、桃山調の土味を出すことに成功した金重陶陽で、自らろくろ轆轤を操り重厚な茶器を作った。のちに無形重要文化財(人間国宝)に指定されるが、次々と有名作家を生み出し、その薫陶をうけた藤原啓、巧みな轆轤さばきで知られる山本陶秀が人間国宝に。備前焼は、美しく絵付けされるわけでもなく、釉薬を施すわけでもなく、ひたすら窯の中で焼き締め、焼成中に現れる自然の変化が作品の出来を左右する―「自然釉」と「ようへん窯変」が特徴である。
きめの細かい備前の土は、備前焼のふるさといんべ伊部や長船町の田んぼの底の土を冬の間に掘り下げ、1〜2年寝かせて風化させたうえで、山土や黒土などを混ぜて使う。焼成は大半が、松の割木をくべて登り窯で焼く。焼いているうちに無釉の肌には、燃料の灰が飛び、自然釉が融け、炎が舞って偶然にも美しい自然の模様をもたらす。


                         金重陶陽作 備前沓茶碗 
江割り木の灰がかかって釉化した「胡麻」、器の一部が灰に埋もれて灰青色になる「浅切」、作品同士がくっついて発色が周囲と異なる「牡丹餅」、器がつかぬようわら藁を巻くことでできる「緋だすき」などとなり、炎が作り出すドラマチックな模様は、まさに「土」と「炎」と「技」が生んだ芸術品。

備前の土は耐火度が低いため、窯の温度が急激に上昇すると割れてしまう。そのうえ素焼きをせずに、いきなり本焼きをする一発勝負だから、低温で短くても7〜10日、じっくりと時間をかけて焼き締める。「備前擂鉢投げても割れぬ」とは、備前焼の特徴を、よく言い当てている。


胡麻

牡丹餅

浅切(アサギリ)
緋だすき

備前焼の技法
窯の中で灰がふりかかることで生まれる文様は窯変と呼ばれる。最近は木炭を使い人工的に施すこともなされている。

岡山から赤穂線で約40分、竹久夢二の生家のあるおく邑久を通過し、穏やかな田園風景が続き、ぽつぽつと窯元の煙突が見える。窯元の集まる伊部駅に下り立つと、駅ビルそのものが「備前焼伝統産業会館」になっていて、古備前の展示もあるが、現代作家の作品の販売が主で、土ひねりの体験も楽しめる。
備前焼が醸し出す素朴な味わいが「侘び・道路を挟んで隣には「岡山県備前陶芸美術館」があり、前庭は10月(第3土・日)の備前焼まつりには、旧山陽道の街道沿いの店々とともに陶器市の会場となる。




 ← 備前焼の殿堂・岡山県陶芸美術館
美術館の1階は備前焼の歴史や多彩な窯変・制作工程などの説明、2階は鎌倉〜江戸にかけての古備前の名品展、3階は金重陶陽・藤原啓・山本陶秀ら人間国宝の代表作を展示、4階は現代作家の作品を展示している。

そして、やきものの店や窯元が集中する旧道へ。備前焼を一名「伊部焼」というのは、この伊部駅から北へ、旧山陽道にかけての一体に窯元が多いからだ。 主な窯元は21軒のほか、作家180軒(陶友会会員のみ)。

きめの細かい伊部から東へ、「藤原啓記念館」へ行く。片上湾を見下ろす高台に立つ白壁の記念館は、現代感覚を持ちながら伝統的な藤原啓の多くの代表作品やその収集品の古備前を展示公開。庭の芝生や木々の手入れがよく、とても快適なロケーションでもある。




                     片上湾を見下ろす藤原啓記念館 
備前焼が時間が許せば、「閑谷(しずたに)学校」へ足を運ぶとよい。300年の伝統をもつ儒学の殿堂・閑谷学校は伊部の町中から北東の山あいにある。備前藩主・池田光政が領内の手習い所として元禄14年(1701)創立したわが国初の庶民学校という。閑静な山紫水明の地に、備前焼の瓦の美しい講堂(国宝)などが建っている。11月上旬の紅葉が見事だそうだ。


 ← 備前焼の瓦が美しい閑谷学校講堂
備前焼の伊部に入ったら、岡山、倉敷、尾道と寄り道も迷うほど瀬戸内の海の幸も山の幸もおいしい料亭や旅館が目白押し。おいしいもの食べて、いい宿に泊まって。

やきものクラブ・楽陶